東日本大震災や熊本地震などの自然災害、新型コロナ感染拡大などのパンデミックなどを背景に、昨今、国が率先して推進しているBCP対策。ここでは、BCP対策の概要や具体例、運用の流れなどについてご紹介しています。
この記事の目次
BCP対策とは
BCP対策とは、企業などのあらゆる施設における緊急事態(自然災害など)への備えを言います。
企業を含めたあらゆる組織では何らかの事業を行っていますが、緊急事態(自然災害、火災、テロなど)が発生した際は、事業の停止を余儀なくされるかもしれません。
短期間で事業を復旧できれば良いかもしれませんが、東日本大震災や熊本地震、新型コロナ感染拡大などのように、長期にわたって事業に影響を及ぼす事態が生じれば、事業の停止はおろか廃業に追い込まれる可能性もあるでしょう。現に、震災やパンデミックの影響で廃業した企業等が少なくありません。
これら予期できない緊急事態が発生した際、中核事業の継続・早期復旧により企業等の存続を図るために策定する計画がBCP。「事業継続計画」とも言われています。
BCP対策が義務付けられている施設もある
近年の大災害やパンデミックを踏まえ、日本政府は国内のあらゆる施設に対してBCP対策を推奨しています。中には、事業継続が利用者・関係者の生命・財産に大きな影響を与える可能性があるとのことから、法令でBCP対策が義務付けられている施設もあります。
それでは、BCP対策が重要と位置づけられている施設の例をご紹介しましょう。
災害拠点病院
2011年の東日本大震災を受け、医療機関自らが被災したことを想定した防災マニュアルに関する議論が活発化。識者による議論や提言を受け、2012年3月、医政局長通知により医療機関におけるBCP策定が努力義務と位置づけられました。
2017年には、災害拠点病院の指定要件が一部改正され、災害拠点病院におけるBCP策定が義務化。2019年の調査時点では、災害拠点病院の指定を返上した1院を除き、すべての災害拠点病院がBCP策定を終えています。
介護施設
2021年の介護報酬改定において、介護施設のBCP策定が義務化。2024年4月までに、すべての介護施設でBCP策定を行うことが義務付けられました。
介護施設でのBCP策定義務化の背景には、新型コロナ感染拡大があったとされています。体力の低下した高齢者等が多く利用している介護施設において、各種感染拡大は利用者の命に関わる重大な問題。自然災害等への備えとともに感染拡大への対応力を強化する目的とし、介護施設におけるBCP策定が義務付けられたとされています。
保育所などの児童福祉施設
2023年4月に施行された省令改正により、保育所などの児童福祉施設におけるBCP策定が努力義務化されました(義務化ではありません)。
児童福祉施設におけるBCP策定が努力義務化された背景には、介護施設と同様、新型コロナ感染拡大があったとされています。児童福祉施設における感染拡大への対応力を強化することで、児童はもとより社会全体への感染予防につなげることを目的としています。
BCP対策の具体例
BCP対策は、法令で義務化・努力義務化された施設以外でも、すでに多くの施設で行われています。具体的には、例えば次のような対策です。
- 非常用発電機の設置
- 緊急時の代替拠点の設定
- 社員や社員の家族の安否確認システムの導入
- 緊急事態の発生を想定した訓練の実施
- 設備・機器の転倒・落下の防止措置
- 備品・薬品・非常食等の保管
- 業務の優先順位の検討・策定
- サプライチェーンの強化
- 外部組織とのパートナーシップ構築
- 情報データのバックアップシステムの見直し
BCPの運用
具体的にBCPを運用するためには、良かれと思ったことを闇雲に行うのではなく、適切な流れに従って運用サイクルを回していくことが重要となります。以下、中小企業庁の公式HPを参考に、BCPの基本的な運用サイクルについて見てみましょう。
①自社の事業を理解する
事業への影響度を評価する
自社の存続を最も大きく左右する中核事業を再確認し、緊急事態の発生時に、この中核事業を継続させるために必要な資源(人・モノ・お金・情報等)を明らかにします。あわせて、中核事業の復旧に要する目標時間・期間も定めます。
中核事業が受ける被害を評価する
中核事業に影響を与えると想定される災害の種類(地震・津波・火災・土砂崩れなど)を明確にし、それぞれの災害が中核事業継続の資源(人・モノ・お金・情報等)に与える影響を把握します。
財務状況を分析する
災害等で自社が被災したことを想定し、実際に発生する可能性のある損害(建物の復旧費用・事業中断による損失など)を概算で把握します。あわせて、その損害に対する有効な対策(事前の資金確保・損害保険の加入など)も想定しましょう。
②BCPの準備、事前対策を検討する
事業継続のための代替策を検討しておく
自然災害等で被災したことを想定し、普段の事業の代替策を検討しておきます。代替の対象として検討すべきは、情報連絡の拠点、被災した重要設備・施設、従業員、通信手段、各種インフラ(電力・ガス・水道など)、情報管理システムなどです。
事前対策を検討・実施する
中核事業の継続に必要となる資源を災害から守るため、具体的な対策を検討して実施します。例えば、避難計画の作成や従業員連絡リストの作成、従業員に対する防災教育、ハザードマップの確認、施設の耐震化、棚の固定、防災用具の購入などです。
③BCPを策定する
基本的なBCPを策定し、いつ、どのような体制でBCPを利用するのかについて事前に整理します。
④BCP文化を定着させる
従業員へのBCP教育を実施する
BCPに関する社内ディスカッションや勉強会などを開催し、従業員にBCP活動への理解を浸透させます。また、心配蘇生法の技術訓練を行ったり防災対策セミナーなどの参加を促したりなどし、従業員に防災に関連する技能や知識を身につけてもらいます。
BCP訓練を実施する
緊急時の連絡・通報の演習、代替施設への移動訓練、バックアップデーターの取り出し訓練など、従業員も交えて具体的なBCP訓練を実施します。
BCP文化を醸成する
平時からの従業員とのコミュニケーション、従業員のための安全対策の実施、取引先・協力会社・地域などを大切にした事業への取り組み、BCPや防災に関連する各種活動の支援等を通じ、BCP文化の醸成を図ります。
⑤BCPのテスト、維持・更新を行う
BCPのチェックを行う
「BCP策定・運用状況の自己診断チェックリスト」(※)を利用し、ここまでに策定・実施したBCP対策を評価してみましょう。改善点が見つかれば、改めて適切な対策を検討します。
※中小企業庁|3.6 BCP策定・運用状況の自己診断(基本コース)
BCPの維持・更新を行う
会社の状況は常に変化している以上、その変化に応じてBCP対策の更新が必要になることもあります。例えば、自社の組織体制に大きな変化があった場合や、自社の中核事業に変更があった場合、新たな事業ライン・製品・サービスが加わった場合などです。自社に変化が生じた際には、策定済みのBCP対策をアップデートする必要があるかどうかを検討してみましょう。
【まとめ】検討を重ねながら自社のBCP対策の精度を高めていく
BCP対策は、あくまでも過去に発生した緊急事態への対応を想定して行う「想像上の対策」です。実際にはどのような緊急事態が発生するか分からない以上、はじめから完璧なBCP対策を行うことはできません。
BCP対策を行う企業等においては、中小企業庁が提示するサイクルをベースに、継続的に議論や検討、改定を重ねていく姿勢が大事。同業他社のBCP対策なども参考に、少しずつ自社のBCP対策の精度を上げていきましょう。