東日本大震災や熊本地震などの例を見てもわかる通り、大規模災害による広域停電が発生した場合、電源がすぐに復旧するとは限りません。電源が復旧するまでの間、多くの施設では非常用発電機による電源供給に頼らざるを得なくなるでしょう。
ここでは、非常用電源装置に求められている運転時間に関し、法令や政府の見解を中心に解説しています。
この記事の目次
消防法から求められている非常用発電機の運転時間
消防法では、停電時にスプリンクラーや消火栓、消防排煙設備などの消防設備が正常に作動するよう、一定の要件に該当する建築物へ非常用発電機の設置を義務付けています。
設置した非常用発電機については、非常時の運転時間に関して次のような規定が設けられています。
- 定格負荷で60分以上連続運転できること
- 燃料油は2時間以上の容量を持つこと
- 発電機起動信号を受けてから40秒以内に電圧確立すること
運転時間以外にも多くの規定が定められています。
建築基準法から求められている非常用発電機の運転時間
建築基準法では、停電時に非常用照明装置や非常用昇降機、排煙設備などの建築設備が正常に作動するよう、一定の要件に該当する建築物へ非常用発電機の設置を義務付けています。
設置した非常用発電機については、非常時の運転時間に関して次のような規定が設けられています。
- 防災設備に30分以上電源供給できること
- 30分以上連続運転できる容量を持つこと
- 発電起動信号を受けてから40秒以内に電圧確立すること
消防法の規定に合わせた非常用発電機を導入すれば、必然的に建築基準法にも適合した非常用発電機となります。
日本内燃力発電設備協会の基準による非常用発電機の種類
一般社団法人日本内燃力発電設備協会では、防災用非常用発電機の認証基準に基づき、以下4種類の非常用発電機を製品検査に適合するとしています。非常用発電機の運転時間に関連させながら概要を確認してみましょう。
普通形(U形)
消防設備・防災設備に附置する予備電源として認証基準に適合する非常用発電機で、かつ次の要件を満たしたものを普通形(U形)としています。
- 停電後の自動始動
- 電圧の自動確立
- 始動から40秒以内の電源供給
- 定格出力で連続1時間以上運転可能
即時普通形(X形)
普通形(U形)の中でも、始動から10秒以内に電源供給できる種類を即時普通形(X形)としています。
長時間形(W形)
普通形(U形)の要件を満たし、定格出力で連続1時間を超えて運転できる種類を長時間形(W形)としています。
即時長時間形(Y形)
即時普通形(X形)の要件を満たし、定格出力で連続1時間を超えて運転できる種類を即時長時間形(Y形)としています。
72時間の運転時間を確保するために
上で説明した通り、日本内燃力発電設備協会による非常用発電機の分類では、その連続運転時間について「1時間以上」「1時間超」などと規定しています。しかしながら、東日本大震災や熊本地震での例にも見られる通り、実際に大規模災害が発生した際には、1時間程度で電源が復旧する可能性は低いと考えられます。
これら過去の教訓を踏まえ、経済産業省では非常用発電機について「最低72時間」の連続運転を可能とするよう強く推奨しています。
「最低72時間」の根拠
国の計画では、大規模災害発生から72時間以内に主要道路の開通が完了する予定ですが、逆に言えば、大規模災害発生から72時間は発電用の燃料が施設に届かない可能性があるということ。燃料を運搬できるまでの間、各施設に自力で発電を行ってもらうため、最低72時間の連続運転ができる状態を構築しておくよう国は推奨しています。
燃料需要が急増するとどうなるか?
東日本大震災でも見られましたが、燃料需要の急増によりガソリンスタンドに車の行列が発生する可能性もあります。
各種の事情で渋滞も起こりやすくなるため、燃料をスムーズに入手することは難しくなるかもしれません。
もとより、道路や橋などのインフラ損傷により、ガソリンスタンドへ移動することすらできなくなる可能性もあります。
大量の燃料備蓄における懸念
非常時に備え、平時に重油や軽油を大量備蓄しておくことも可能です。ただし、重油や軽油は劣化(酸化)しやすいため、それぞれ使用期限があることに注意しなければなりません。
石油連盟では、A重油について3か月、軽油について6か月を使用期限の目安とするよう啓蒙しています。
非常時に向けた燃料調達先の確保を
燃料の長期的な大量備蓄ができない以上、非常時でも燃料がスムーズに入手できるよう、あらかじめ調達先との関係を構築しておくよう国は推奨しています。
配送スタッフの人数や日常的な在庫量が十分な業者と良好な関係を築きつつ、非常時には優先的に対応してもらえる「災害協定」を結んでおくことが有効です。
【まとめ】燃料問題も含めた総合的な予備電源対策が急務
東日本大震災では、東北電力管内における電源供給が80%までに復旧するまで3日の期間を要しました(完全復旧までは約3か月)。熊本地震では、電源供給が完全復旧するまでに約5日を要しました。そして近年は、これら大災害に匹敵するとされる南海トラフ地震や首都圏直下型地震などの発生が予想されています。
大規模災害に備えた非常用発電機の設置は進んでいるものの、非常用発電機を作動させるための燃料調達については、自治体も含めてほとんど進んでいないことが現状です。緊急時に非常用発電機が無用の長物とならないよう、燃料備蓄や燃料調達も含めた総合的な予備電源対策を講じる必要があります。