ここでは、非常用発電機の耐用年数について詳しく解説しています。
非常用発電装置の耐用年数には2種類の基準があるため、両者を混同しないように注意しましょう。
耐用年数にあわせて、非常用発電機の予防保全や事後保全、発電機の主な故障原因についても触れたいと思います。
この記事の目次
非常用発電機の耐用年数には2種類ある
非常用発電機の耐用年数には、「法定耐用年数」と「国土交通省官庁営繕所基準の耐用年数」の2種類があります。
それぞれの違いを確認しておきましょう。
法定耐用年数は15年
法定耐用年数とは、会計処理において減価償却が認められている期間のことです。
非常用発電機の法定耐用年数は、15年と規定されています。
非常用発電機を含め、長期間にわたって使い続ける予定の企業資産(建物や様々な設備)は、その購入資金を単年度の経費に一括算入するのではありません。
複数の年度に分散して経費算入することとなっています。このような資産を減価償却資産と言います。
減価償却資産には、資産の種類ごとに「何年にわたって購入資金を分散するか(=法定耐用年数)」が決められていますが、非常用発電機のそれが15年と規定されています。
なお、法定耐用年数は、あくまでも会計処理上で規定された耐用年数であり、実際の機械装置としての耐用年数とは必ずしも一致しません。
国土交通省官庁営繕所基準の耐用年数は30年
国土交通省は「官庁営繕所基準」の中で、建物や機械設備などに関する実際の耐用年数(の目安)を公表しています。
同基準によると、非常用発電機の耐用年数は30年。
適切な修繕・メンテナンスなどを怠らない限り、非常用発電機は30年間にわたって正常に稼働すると国土交通省では判断しています。
始動用蓄電池について
停電が発生した際、非常用発電機を始動させるための電源となる装置が、始動用蓄電池(バッテリー)です。
停電時に非常用発電機を動かすために必須の設備となりますが、始動用蓄電池も機械である以上、永遠に装置が正常に稼働し続けるわけではありません。
始動用蓄電池の種類にもよりますが、一般的に始動用蓄電池は5~8年ほどで故障リスクが高くなるとされています。
言い換えれば、始動用蓄電池の実質的な耐用年数は5~8年ということになります。使用頻度を問わず、5~8年に1回は交換する必要があると理解しておきましょう。
なお、始動用蓄電池の交換費用は、蓄電池1個あたりで3~7万円ほどです。
製品価格に、作業者の工賃や交通費などが加算されます。
非常用発電機には予防保全・メンテナンスが不可欠
非常用発電機に限らず、あらゆる電気設備はいずれ故障するのが避けられないため、その設備を管理する者は、常に故障に向けた対策を用意しておかなければなりません。
この対策として一般的な考え方が、「予防保全」と「事後保全」です。
予防保全・事後保全とは
予防保全とは、あらかじめ電気設備の更新時期を決め、設備の動作状況を確認したり必要なパーツを交換したりすることです。
電気設備が故障しているか否かにかかわらず、必ず定期的に行われるメンテナンスです。
一方で事後保全とは、電気設備が故障してから行う修理や交換のことです。
電球が切れてから新しい電球に交換する、などという日常的な対処が事後保全の一種です。
非常用発電機は、災害発生時に必ず動作しなければならない設備です。
実際に非常時となった際、故障を原因に動作しないことが許されない設備ですので、必然的に予防保全のみを選択することとなります。
予防保全の際に準拠する法律
非常用発電機の予防保全には、建築基準法、消防法、電気事業法(電気設備技術基準)による規制があります。
それぞれの規制の概要は次の通りです。
建築基準法
非常時に防災設備へ30分以上電源を供給できること、30分以上連続運転できる容量を持つこと、40秒以内に電圧確立することなどが定められています。
消防法
各消防設備の必要運転時間が細かく規定されています。
例えば、定格負荷で60分以上稼働できること、2時間以上稼働する燃料油の容量を持つこと、発電起動信号を受けてから40秒以内に電圧確立することなどです。
また、非常用発電機の総合点検における実負荷試験や模擬負荷試験などについても詳しく規定されています。
電気事業法(電気設備技術基準)
電気事業法(電気設備技術基準)では、非常時か常時かにかかわらず、電気設備に関する技術的な規定が詳細に規定されています。
停電時における消防設備への電源供給はもちろんのこと、停電時に様々な電気設備を動かす保安用・業務用電源としての技術的な基準にもなる規定です。
非常用発電装置の主な故障原因
非常用発電機の主な故障原因を3つほど見てみましょう。
冷却水の劣化
非常用発電機のラジエーターには冷却水が貯蔵されています。
しかし、冷却水の交換を怠ると錆や腐食などによって冷却効果が下がり、エンジンがオーバーヒートして故障することがあります。1年ごとに冷却水の交換が必要です。
バッテリーの劣化
バッテリーは、使用頻度や保管環境、経年などを原因に故障することがあります。
蓄電池は7年ごと、触媒栓は5年ごとを目安に交換する必要があります。
エンジンオイルの劣化
エンジンオイルが経年により劣化・減少すると、エンジンの動きが鈍くなり、冷却効果が下がって焼け付きを起こすことがあります。
2年を目安にエンジンオイルを交換する必要があります。
【参考】バスタブ曲線について
一般的に機械設備は、設置されてから寿命を迎えるまでの間に、「初期故障期」「偶発的故障期」「摩耗故障期」の3つの期間を経るとされています。
初期故障期とは、材料の欠陥や設計ミス、検品漏れなどを原因として故障が起こりやすい初期期間のこと。
偶発的故障期とは、初期故障期を経てから、おおむね安定的に機械が稼働する期間のこと。
摩耗故障期とは、機械の寿命が近づいて故障しやすくなる期間のことを言います。
折れ線グラフで故障発生率を描くとバスタブの形に似ていることから、これら3つの期間の故障率の変化をまとめて「バスタブ曲線」と呼ぶことがあります。
知っておきたい非常用発電機の基礎知識
非常用発電機に関して、知っておきたい基礎知識を4点ほどまとめました。
常用発電機と非常用発電機の違い
常用発電機とは、電力会社からの電力供給の有無にかかわらず、常に稼働している発電機を言います。
一方で非常用発電機とは、電力会社からの電力供給が途絶えた時にだけ稼働する発電機を言います。
非常用発電機は緊急時にのみ稼働させる発電機ですので、定期的な法定点検や予防保全を行い、緊急時に必ず稼働するよう機能を維持させておく必要があります。
REH蓄電池とMSE蓄電池の比較
REH蓄電池とは、小型でも12Vの公称電圧を得られる蓄電池のことです。
UPS用蓄電池として、または起動用蓄電池として広く採用されています。
一方でMSE蓄電池とは、公称電圧2Vを得られる蓄電池のことです。
REH蓄電池に比べてやや寿命が長くなる傾向はあるものの、広めの設置スペースが必要になるなどの課題があるため、導入時には慎重な検討が必要です。
実負荷試験と模擬負荷試験
非常用発電機の負荷試験には、実負荷試験と模擬負荷試験の2種類があります。
どちらの試験方法を採用しても、消防法上は問題ありません。
実負荷試験とは、施設内で連携している各設備を同時稼働させながら行う試験のことです。
設備の同時試験を行えることはメリットですが、施設内を一時的に停電させる必要があること、試験には多くの人員を必要とすることなどのデメリットもあります。
一方で模擬負荷試験とは、施設内で連携している各設備をいったん切り離した上で、各設備に応じた装置で個別に行う試験のことです。
施設を停電させる必要がなく、また、少ない人員で試験を行えることなどがメリットです。
発電機には「ディーゼル」と「ガスタービン」の2種類がある
非常用発電機のエンジンシステムには、ディーゼルとガスタービンの2種類があります。
ディーゼルの場合、起動までの時間が短いことや熱効率の高さがメリットですが、稼働時の騒音や振動、排気の煙が多くなるなどのデメリットもあります。
一方でガスタービンの場合には、凍結や断水で故障しない点がメリットとなりますが、燃焼消費が多いなどのデメリットもあります。
導入件数を基準とすれば、ガスタービンよりもディーゼルのほうが一般的です。