【この記事でわかること】
・非常用発電機の点検が義務付けられている3つの法律とその根拠
・消防法・電気事業法・建築基準法それぞれの点検基準と点検周期
・3つの法律の点検項目の違い
・平成30年消防法改正による負荷試験と内部観察の扱いの変化
・模擬負荷試験の特徴と点検方法を選ぶ際のポイント
非常用発電機は、火災や停電などの非常時に、消防用設備や非常用照明などへ電力を供給するための設備です。非常時に確実に稼働しなければ、人命や事業継続に大きな影響を及ぼすおそれがあります。点検や検査の根拠法令は、設備の用途や設置条件に応じて、消防関係法令、電気事業法、建築基準法などに分かれます。しかし、それぞれの法律で点検の対象や内容、周期が異なるため、「自施設ではどの点検が必要なのか」がわかりにくいという声も少なくありません。この記事では、非常用発電機の点検基準について法律別に整理し、実務で押さえるべきポイントをお伝えします。
非常用発電機の点検が義務付けられている法的根拠
非常用発電機に関する維持管理の根拠は、消防関係法令、電気事業法、建築基準法など複数にまたがる場合があります。それぞれの法律は目的や規制対象が異なるため、同じ発電機でも用途や建物条件によって複数の法令対応が必要になることがあります。
消防法は、火災予防と人命保護の観点から、スプリンクラーや屋内消火栓など消防用設備の電源として設置されている非常用発電機を規制の対象としています。電気事業法は、電気工作物の安全維持を目的として、発電設備そのものの保安基準への適合を求めています。建築基準法は、建築物の安全性維持の観点から、非常用照明など建築設備に附帯する非常用発電機を対象に点検を義務付けています。
施設管理者やビルオーナーは、自施設の非常用発電機がどの法律の適用を受けるのかを正しく把握し、それぞれの点検基準に沿った対応を行うことが求められます。
消防法に基づく点検基準と内容
消防関係法令では、屋内消火栓設備やスプリンクラー設備などの消防用設備の非常電源として附置されている自家発電設備について、消防用設備の一部として点検が必要です。対象の有無は、建物に消防法令上の消防用設備等の設置義務があるかどうかで判断され、一律に「延べ床面積1,000平方メートル以上」の建物だけに限られるわけではありません。非常時にスプリンクラーや屋内消火栓など消防用設備へ確実に電力を供給するために、非常用発電機が正常に機能するかどうかを定期的に確認する必要があります。
参考:東京消防庁「消防用設備等点検報告制度(消防法第17条の3の3)」
機器点検(6か月に1回)
機器点検は6か月ごとに実施する点検で、非常用発電機の外観や機能を確認します。具体的な点検項目には、設置状況、表示の確認、自家発電装置本体の状態、始動装置・制御装置・保護装置の動作確認、計器類の指示値、燃料容器や冷却水タンクの状態、排気筒・配管・結線接続の確認、接地の状態、始動性能・運転性能・停止性能の確認、耐震措置の状況、予備品の有無などが含まれます。
総合点検(1年に1回)
総合点検は1年ごとに実施する、より詳細な点検です。機器点検の項目に加えて、接地抵抗や絶縁抵抗の測定、自家発電装置の接続部の確認、始動装置・保護装置の詳細な動作確認、負荷運転または内部観察などによる運転性能の確認、切替性能の確認などを行います。
特に「負荷運転または内部観察など」は、非常用発電機が実際に負荷をかけた状態で正常に稼働するかを確認する重要な項目です。
電気事業法に基づく点検基準と内容
電気事業法上、非常用発電設備を含む発電設備は「電気工作物」として扱われます。設置条件に応じて一般用電気工作物、自家用電気工作物、小規模発電設備などの区分がありますが、対象となる設備には技術基準への適合維持や保安体制の確保が求められます。消防法が消防用設備への電力供給の確保を目的としているのに対し、電気事業法は電気工作物としての安全性そのものに着目している点が特徴です。
月次点検と年次点検
自家用電気工作物として扱われる非常用発電設備では、保安規程に基づき月次点検や年次点検を行うのが一般的です。標準的な年次点検項目には、絶縁状態や接地抵抗の確認、保護継電器の確認、非常用予備発電装置の起動・停止・発電電圧・発電周波数の確認などが含まれます。
参考:経済産業省 関東東北産業保安監督部「自家用電気工作物の標準的な点検項目について」
点検の実施者と対象設備
これらの保安業務は、選任された電気主任技術者が監督するか、外部委託承認を受けた電気管理技術者・電気保安法人に委託して実施します。なお、低圧で出力10キロワット未満の内燃力発電設備は小規模発電設備に該当し得るため、対象範囲は発電方式や出力、受電条件を踏まえて個別に確認する必要があります。消防法の点検とは対象範囲や点検者の資格要件が異なるため、それぞれ別に対応する必要があります。
建築基準法に基づく点検基準と内容
建築基準法第12条の定期報告制度では、特定行政庁が指定する建築物に設ける建築設備のうち、非常用の照明装置などについて、資格者による定期検査と特定行政庁への報告が求められます。非常用発電機が非常用照明の予備電源として用いられている場合は、建築基準法に基づく定期検査の対象になります。
点検項目と実施者
建築基準法における非常用発電機の点検では、非常用照明装置が正常に点灯するかどうかの確認が中心となります。非常用発電機を通じて非常用照明へ電力が供給され、照度が基準値を満たしているかを検査します。また、自家用発電装置の外観や性能、蓄電池の性能なども確認対象です。
非常用照明の点検は建物全体を対象とするため、すべての電球が取り付けられた状態で検査を行わなければなりません。点検の実施後には、保守報告書の作成と特定行政庁への報告も義務付けられています。
点検・検査は、一級建築士、二級建築士又は国土交通大臣が定める資格を有する者が実施します。
3つの法律の点検基準の違い
消防法・電気事業法・建築基準法で定められた非常用発電機の点検義務は、対象範囲・点検周期・点検内容・実施者がそれぞれ異なります。ここでは、3つの法律の違いを項目ごとに整理します。
消防関係法令
・規制の目的:消防用設備等の非常電源としての機能確保
・主な対象:消防用設備等の非常電源として附置された自家発電設備
・点検周期:機器点検は半年に1回、総合点検は1年に1回
・主な確認事項:外観・機能確認、接地抵抗、絶縁抵抗、負荷運転または内部観察等
・実施者:消防設備士または消防設備点検資格者等
・行政手続き先:管轄消防署
電気事業法
・規制の目的:電気工作物の安全確保・技術基準適合維持
・主な対象:自家用電気工作物として扱われる非常用発電設備
・点検・検査周期:保安規程に基づく月次点検・年次点検が一般的
・主な確認事項:外観、絶縁状態、接地抵抗、保護継電器、起動停止、電圧・周波数など
・実施者:電気主任技術者または外部委託承認を受けた電気管理技術者・電気保安法人
・行政手続き先:保安規程・主任技術者関係は所轄産業保安監督部等
建築基準法
・規制の目的:建築設備の安全確保と定期報告
・主な対象:非常用照明装置の予備電源として用いられる建築設備
・点検・検査周期:おおむね6か月から1年までの間隔で特定行政庁が定める時期
・主な確認事項:切替え状況、点灯状況、照度、自家用発電装置の外観・性能、蓄電池の性能
・実施者:一級建築士、二級建築士、建築設備検査員等
・行政手続き先:特定行政庁
多くの施設では、消防法と電気事業法の両方の適用を受けるケースが一般的です。建築基準法による点検が加わる場合もあるため、自施設がどの法律の対象となるのかを確認し、漏れなく点検を実施することが大切です。。
平成30年消防法改正のポイント(負荷試験と内部観察)
平成30年6月1日施行の改正により、消防関係法令における自家発電設備の点検基準が見直されました。この改正は、非常用発電機の点検実務に大きな影響を与える内容を含んでおり、施設管理者として正しく理解しておく必要があります。
改正の4つのポイント
改正内容は、主に以下の4点です。
負荷運転に代わる点検方法として「内部観察など」が追加された負荷運転および内部観察などの点検周期が、予防的保全策を講じている場合は「6年に1回」に延長された原動機にガスタービンを用いる非常用発電機は、負荷運転が不要となった換気性能の点検は、負荷運転時ではなく無負荷運転時に実施する方法へ変更された
改正前は、総合点検における運転性能の確認方法が「負荷運転のみ」とされており、毎年の実施が求められていました。改正後は、負荷運転と内部観察などのいずれかを選択できるようになり、予防的保全策を実施していれば点検周期も6年に1回へ延長されています。
予防的保全策とは
予防的保全策とは、負荷運転や内部観察などの点検周期を6年に1回へ延長するために必要な日常的な保全措置のことです。具体的には、エンジンオイルや冷却水の適切な交換・補充、燃料フィルターやオイルフィルターの定期交換、潤滑油のプライミング(予備給油)の実施、始動用蓄電池の適切な管理などが含まれます。
これらの保全策が適切に実施されていることが確認できなければ、6年に1回への周期延長は認められず、従来どおり毎年の負荷運転または内部観察などが必要となります。
負荷運転と内部観察などの違い
負荷運転は、非常用発電機に負荷をかけた状態で運転性能を確認する方法です。実負荷運転と模擬負荷運転(模擬負荷試験)の2つの方法があります。
内部観察などは、過給器や排気管、シリンダ摺動面などの状態確認、燃料噴射弁などの動作確認、油類の成分分析などにより、負荷運転に代えて設備状態を確認する方法です。負荷をかけずに設備の劣化状態を直接確認できますが、分解・組み立てに時間と費用がかかるという側面があります。
非常用発電機の点検方法の選び方
平成30年の改正により、負荷運転と内部観察などのいずれかを選択できるようになりましたが、どちらの方法を選ぶべきかは施設の状況によって異なります。ここでは、それぞれの方法の特徴を整理し、選定のポイントをお伝えします。
実負荷運転・模擬負荷運転・内部観察などの違い
実負荷運転
・概要:施設内の実際の負荷を使って運転する方法
・停電の必要性:必要な場合がある
・所要時間の目安:数時間程度
・特徴:施設全体の動作確認が可能ですが、停電リスクがあります
模擬負荷運転(模擬負荷試験)
・概要:外部の模擬負荷装置を接続して運転する方法
・停電の必要性:不要
・所要時間の目安:1〜2時間程度
・特徴:停電なしで実施でき、施設運営への影響を抑えやすい方法です
内部観察など
・概要:エンジンを分解し、内部の状態を目視確認する方法
・停電の必要性:不要
・所要時間の目安:数日程度
・特徴:負荷をかけずに劣化状態を確認できますが、分解・組み立ての手間と費用がかかります
模擬負荷試験が選ばれる理由
病院やデータセンター、商業施設のように電源を停止できない施設では、停電を伴う実負荷運転の実施が困難です。また、内部観察などはエンジンの分解を伴うため、作業期間が長くなり、費用面の負担も大きくなります。
模擬負荷試験は、外部の模擬負荷装置を接続して非常用発電機に負荷をかける方法です。施設内の電力供給に影響を与えずに実施できるため、停電が難しい施設でも採用しやすい点が特長です。当社では、ヒアリング、現地調査、試験実施、報告書提出まで一連の対応を行っており、全国でご相談を受け付けています。
非常用発電機の点検基準を正しく理解し、確実な点検を
非常用発電機の点検基準は、消防関係法令・電気事業法・建築基準法など複数の制度で定められており、それぞれ点検の目的・内容・周期・実施者が異なります。特に消防関係法令上の点検については、平成30年6月1日施行の改正により、負荷運転に加えて内部観察なども選択可能となり、予防的保全策を講じることで点検周期を6年に1回へ延長できるようになりました。
しかし、点検の選択肢が増えたからこそ、自施設にとってどの方法が適切かを正しく判断することが重要です。法令で定められた点検は、非常時に非常用発電機を確実に稼働させるための基本的な備えです。点検の実施漏れや不適切な点検方法の選択は、万が一の際に大きなリスクにつながります。
当社は、非常用発電機の模擬負荷試験を専門とし、全国で施工に対応しております。停電なしで実施できる模擬負荷試験のご相談や、点検に関するお問い合わせは、お気軽にご連絡ください。報告書は、試験実施から1週間以内を目安にご提出いたします。




