「病院だから必要」「延べ面積が1,000㎡以上だから必要」と、建物の名称や広さだけで非常用発電機の要否を決めることはできません。消防法や建築基準法は、建物に消防用設備、排煙設備、非常用照明、非常用エレベーターなどを設けるよう求めています。その設備を停電時に動かすために必要なのが非常電源です。
非常電源は発電機だけではありません。まず「どの法令により、どの設備が必要になるか」を確認することが大切です。
【この記事でわかること】
・非常電源と非常用発電機の違い
・非常用発電機が必要かを判断する順序
・消防法、建築基準法、電気事業法、火災予防条例の役割
・病院、商業施設、マンション、工場などで確認したい項目
・設置前後の届出と、設置後に続く点検・報告
必要な設備から非常用発電機の要否を判断する
建物の用途、規模、収容人員、階数、高さ、構造から、設置義務が生じる設備を特定するのが第一歩です。同じ病院やマンションでも、必要な設備は同一ではありません。
非常電源と非常用発電機は同じ意味ではない
非常電源は、停電時にも消防用設備や避難・救出に使う設備へ電力を送る仕組みの総称です。消防法令上の非常電源には、非常電源専用受電設備、自家発電設備、蓄電池設備、燃料電池設備があります。自家発電設備は、その選択肢の一つです。
建築基準法令が求める予備電源の方式は、設備ごとに異なります。たとえば非常用の照明装置では、蓄電池、または停電直後は蓄電池で点灯し、その後に自家用発電装置へ切り替える方式などが定められています。
BCPのために、医療機器やサーバーへ給電する発電機を設ける場合があります。法定設備と事業継続のための負荷を分け、必要容量と運転時間を決める必要があります。
延べ面積1,000㎡以上でも一律に発電機が必須になるわけではない
消防法令では、防火対象物の用途や規模などに応じて消防用設備等を設置し、停電時にも必要な設備が動くよう非常電源を付けます。特定防火対象物で延べ面積が1,000㎡以上の場合、消防用設備等の非常電源として非常電源専用受電設備を選べず、自家発電設備、蓄電池設備または燃料電池設備が必要になる規定があります。
この「1,000㎡」は、建物すべてに発電機を義務付ける線引きではありません。必要な消防用設備、各設備の非常電源、選択できる方式を順番に確認する必要があります。
高さ31mを超える建物でも同じ順序で判断する
建築基準法では、高さ31mを超える建築物に、原則として非常用エレベーターを設ける規定があります。ただし、用途や構造などによる例外もあります。また、法令が求めるのは非常用エレベーターとその予備電源であり、「高さ31mを超えたら、どの建物にも非常用発電機が必須」と読み替えることはできません。
排煙設備や非常用照明にも、それぞれ対象となる建築物・部分と予備電源の基準があります。発電設備を複数の消防用設備や建築設備で共用する設計もあります。設備ごとの起動時間、連続運転時間、容量、配線等の基準をすべて満たす必要があるため、同時に動かす負荷を含めた設計図書の確認が欠かせません。
非常用発電機の設置要否を確認する5つの手順
発電機の機種や出力を先に選ぶと、必要な設備が抜けたり、不要な容量を見込んだりします。次の順序に沿えば、条件を漏れなく確かめられます。
1.建物の用途・規模・構造を確認する
各階の用途、延べ面積、対象部分の床面積、収容人員、階数、高さ、地階・無窓階の有無は確認が必要です。増築や用途変更があった建物では、確認済証、消防用設備等の届出、点検結果報告書、設備図面と現在の状態を照合する必要があります。
2.設置義務がある消防用設備・建築設備を洗い出す
屋内消火栓設備、スプリンクラー設備、消防用排煙設備、非常コンセント設備などは消防法令、排煙設備、非常用照明、非常用エレベーターなどは建築基準法令の対象になり得ます。図面と届出書類で設置根拠まで確かめることが大切です。
3.設備ごとに認められる非常電源を確認する
必要な設備が分かったら、選択できる非常電源の確認が必要です。起動時間、連続運転時間、配線、耐火措置、電源容量に加え、点検・操作のための保有距離も方式や設置条件によって異なります。たとえば、屋内消火栓設備の非常電源としてキュービクル式以外の自家発電設備を設ける場合、消防法施行規則は自家発電装置の周囲に0.6m以上、独立した操作盤の前面に1m以上の空地を求めています。発電機を共用する場合は、同時使用する負荷を含めた容量計算が必要です。
4.法定負荷と事業継続に必要な負荷を分ける
消防用設備や避難・救出設備に必要な容量を確保したうえで、医療機器、通信機器、給排水ポンプ、サーバーなどへ供給するかを決めましょう。法令上必要な運転時間と、災害時に事業を続けたい時間も同じとは限りません。非常時に何を優先して動かすか、負荷の投入順序まで決めておくと、過大・過小な設計を避けられます。
5.機種決定前に各窓口へ確認する
消防用設備等は所轄消防署、建築設備は建築主事または指定確認検査機関、電気工作物は所管の産業保安監督部が主な確認先です。火災予防条例や少量危険物の扱いは自治体により異なります。既存建物へ増設・移設する場合も、発注前に図面と仕様を示して届出や検査の要否を確認することが大切です。
4つの法令は何を決めているのか
非常用発電機には複数の法令が関係しますが、同じ内容を重ねて規制しているわけではありません。役割を分けて読むことが、見落としを防ぐ近道です。
- 消防法令:防火対象物に必要な消防用設備等、その非常電源、設置・維持・点検・報告
- 建築基準法令:排煙設備、非常用照明、非常用エレベーターなど、避難・救出に関わる建築設備と予備電源
- 電気事業法令:発電設備を含む電気工作物の技術基準への適合、保安規程、主任技術者、工事計画など
- 火災予防条例:発電設備の位置・構造・管理、設備の設置届など、地域ごとの火災予防上の基準
消防法と建築基準法は、停電時にも作動させる設備と電源条件を定めます。電気事業法は電気工作物としての安全、火災予防条例は発電設備自体の火災予防を担います。
消防法、建築基準法、電気事業法の届出や点検については、非常用発電機の設置基準に関わる法令でも解説しています。
建物の用途別に確認したい設備
次の例は、建物名だけで設置義務を断定するための一覧ではありません。用途、規模、収容人員、階数、構造などを確認し、必要な設備へ落とし込むための手掛かりです。
病院・診療所・高齢者施設
用途区分、入院・入所の有無、収容人員、床面積などは確認が必要です。スプリンクラー設備などが必要なら、その非常電源も含めて検討してください。医療機器への給電では、法定設備とは別に継続時間と優先順位を決めておくと安心です。
百貨店・飲食店・ホテルなど
特定防火対象物に該当する可能性があります。複合ビルでは、各部分の用途と建物全体の扱いを確認する必要があります。延べ面積に加え、設備ごとの設置基準と、選択できる非常電源まで確かめておくことが大切です。
マンション・共同住宅
共同住宅では、階数、延べ面積、地階、廊下や階段の構造、住戸用スプリンクラー設備などの有無を確認する必要があります。高さ31mを超える場合は非常用エレベーターの規定も確認対象です。給水ポンプ、オートロック、通信設備を停電時にも使う場合は、法令上の負荷と生活維持のための負荷を分けて設計しましょう。
学校・工場・オフィス
学校、工場、オフィスは、建物の使い方や扱う物品によって必要設備が変わります。工場では危険物の種類と量、発電機の燃料、製造工程を安全に停止するための負荷も把握しておく必要があります。オフィスビルでは、階数や高さ、地階、無窓階、テナント用途の変更が判定に影響します。
設置後は点検・報告・記録まで続ける
非常用発電機は、設置後も、常用電源が失われたときに起動し、必要な設備へ安定して電力を送れる状態を保つ必要があります。
消防用設備等の非常電源として設置した自家発電設備は、消防法令に基づく機器点検を6か月に1回、総合点検を1年に1回行います。点検結果の報告は、特定防火対象物が1年に1回、それ以外が3年に1回です。
総合点検は1年に1回必要です。そのうち、ガスタービンを原動力とするものを除く自家発電設備の運転性能は、負荷運転または内部観察等で確認します。製造年または前回の運転性能点検から6年を経過していない期間に限り、運転性能の維持に係る予防的な保全策を講じていれば、運転性能に係る点検を省略できます。
一定の防火対象物では、消防設備士または消防設備点検資格者に点検させなければなりません。対象は、延べ面積1,000㎡以上の特定防火対象物、同規模以上の非特定防火対象物のうち消防長・消防署長が指定するもの、特定一階段等防火対象物です。点検を依頼する前に、負荷試験の方法と依頼先の資格を確認し、自施設に必要な点検資格と実施方法を照合してください。
建築基準法第12条の定期報告では、対象となる建築物の排煙設備や非常用照明などを検査し、特定行政庁へ報告します。対象設備や報告時期は地域の指定も関係するため、自治体の案内で確認が必要です。電気事業法上の点検は設備区分と保安規程に従って実施し、記録は消防法令の点検記録と分けて管理しましょう。
判断に迷ったときの確認リスト
- 建物の現在の用途、各階の用途、延べ面積、収容人員、階数、高さはわかるか
- 用途変更、増築、テナント入れ替え後の図面と届出がそろっているか
- 消防法令と建築基準法令で必要な設備を分けて確認したか
- 各設備に認められる非常電源の種類を確認したか
- 法定負荷とBCP・事業継続の負荷を分けたか
- 発電機の容量、起動時間、運転時間、燃料、設置場所を設計図書で確認したか
- 消防、建築、電気、条例、燃料に関する手続きを洗い出したか
- 設置後の点検者、周期、報告先、記録の保管方法を決めたか
非常用発電機の設置後も、使える状態を維持する
非常用発電機が必要かどうかは、「病院」「マンション」「1,000㎡以上」「高さ31m超」といった一つの条件では決まりません。建物条件から必要な消防用設備・建築設備を確認し、その設備に認められる非常電源を選びましょう。そのうえで、電気事業法令と火災予防条例に沿って設置し、点検・報告を続けるのが正しい順序です。
当社は、非常用発電機の負荷試験、保守点検、修理・整備、更新・新設に全国で対応しています。模擬負荷試験は施設内の電力供給に影響を与えずに実施でき、試験後は1週間以内に報告書を提出します。設置後の点検方法や現在の発電機の状態に不安がある場合は、当社へご相談ください。




