平成30年6月1日、非常用発電設備の点検方法に関するルールが大きく改正されました。
従来は1年に1度の頻度で行うとされていた非常用発電機の負荷試験は、6年に1度へ変更されました。この改正にともない、点検対象となる施設では、従来とは異なる対応を検討する必要が生じています。
ここでは、非常用発電設備の点検方法に関する法令改正のポイント、点検対象施設におけるルール改正後の対応について詳しく解説します。
この記事の目次
点検方法の改正のポイント
平成30年6月1日、非常用発電機の負荷試験に関連するルールが改正されました。
改正の背景にあった問題が、負荷試験の際の停電。負荷試験の方法によっては商用電源を停電させる必要があるため、施設の運営に支障が生じるとの理由で改正が検討された形です。
また、屋上や地下などに発電設備を設置している施設では、類似負荷装置の設置が困難だったという点も、ルール改正の理由となりました。
以下、改正のポイント4点を確認してみましょう。
負荷運転に代えて行うことができる点検方法として、内部観察等を追加
点検方法について、改正前は「負荷試験のみ」とされていましたが、改正後は「負荷試験または内部観察」となりました。
負荷運転および内部観察等の点検周期を6年に1回へ延長
点検周期について、改正前は「1年に1回」とされていましたが、改正後は「運転性能の維持に係る予防的な保全策が講じられている場合には6年に1回」となりました。
原動機にガスタービンを用いる自家発電設備の負荷運転は不要
点検対象の範囲について、改正前は「すべての自家発電設備に負荷試験が必要」とされていました。
しかし、改正後は「原動機にガスタービンを用いる自家発電設備の負荷試験は不要」となりました。
換気性能点検は負荷運転時でなく、無負荷運転時等に実施するように変更
換気性能点検のタイミングについて、改正前は「負荷試験時に実施」とされていましたが、改正後は「無負荷試験時に実施」となりました。
「内部観察等」とは
ルール改正後に登場した「内部監察等」という概念について、消防庁では次の項目を点検することと説明しています。同庁公式リーフレットより抜粋します。
- 過給器コンプレッサ翼及びタービン翼並びに排気管等の内部観察
- 燃料噴射弁等の動作確認
- シリンダ摺動面の内部観察
- 潤滑油の成分分析
- 冷却水の成分分析
参照:消防庁公式リーフレット
「予防的な保全策」とは
消防庁の説明に登場する「予防的な保全策」という概念について、消防庁では、不具合を予防する保全策として次のような確認交換等を行うことと説明しています。
同庁公式リーフレットより抜粋します。
- 予熱栓、点火栓、冷却水ヒーター、潤滑油プライミングポンプがそれぞれ設けられている場合は1年ごとに確認が必要です。
- 潤滑油、冷却水、燃料フィルター、潤滑油フィルター、ファン駆動用Vベルト、冷却水用等のゴムホース、パーツごとに用いられるシール材、始動用の蓄電池等についてはメーカーが指定する推奨交換年内に交換が必要です。
参照:消防庁公式リーフレット
以上のルール改正を踏まえ、施設側が検討すべき点検周期として、以下で3つの選択肢をご提案します。
選択肢1:負荷試験を中心とした点検周期
- 点検料金の概要:3つの選択肢でもっとも安い
- 点検に要する期間:1回2時間程度
模擬負荷試験を通じ、1年に1回の頻度で非常用発電機を点検する方法です。ルール改正前の負荷試験では「実負荷試験」か「模擬負荷試験」のいずれかを1年に1回の頻度で受けるというルールでしたが、このうち後者選択時と同様になります。
模擬負荷試験の場合、実負荷試験とは違って停電や瞬停を起こすことはありません。
そのため、施設の運営にも影響がありません。定格出力の30%以上の安定的な負荷を与えながら、水温計や電流計、電圧計、燃料計などの必要な項目を確認し、発電機自体の性能を詳細に点検します。
点検の安全性と確実性、コストパフォーマンス、点検に要する時間などに照らせば、3つの選択肢の中では、特にバランスのとれた方法と考えられます。
模擬負荷試験点検の進め方
負荷試験点検の有資格者が、負荷を投入する前に消耗品の状況を確認。安全に試験を行えるかどうかを判断した上で、計器類を確認しながら丁寧に点検を進めていきます。点検中に異常が発見された場合には、施設担当者とともに点検続行の可否を検討します。
点検を通じて不具合のある箇所が発見された場合には、調整や部品交換などの中から、適切な対処法を検討し施設担当者に提案します。
選択肢2:負荷試験と予防的保全を中心とした点検周期
- 点検料金の概要:3つの選択肢で2番目に安い
- 点検に要する期間:発電機容量により半日~1日
「1年目に負荷試験を行い、その後5年間は毎年予防的保全を講じる」という周期で点検する方法です。
予防的保全では、毎年4つの箇所(予防線、点火栓など)を確認します。また、8つの消耗部品(潤滑油、冷却水など)の状態を確認し、施設側に対してメーカーの推奨交換年内の交換を進言します。
6年周期のうち5年は予防的保全を受ける必要があるものの、負荷試験自体は6年に1度となったことで、施設によっては対応の負担が軽減するかもしれません。
ただし、毎年模擬負荷試験を受けることに比べると、やや料金が割高になる点や点検に約1日を要する点などが懸念事項となります。
1年ごとに確認が必要な項目
1年ごとに確認が必要な各項目の内容を確認してみましょう。
予熱栓
予熱栓の発熱部を確認し、変形や断線、絶縁不良の有無をチェックします。
点火栓
電極に異常な消耗が見られないこと、プラグキャップ値がメーカーの指定値範囲内であること、異常な燃焼残渣物が残留していないことを確認します。
潤滑油・プライミングポンプ
プライミングポンプの作動が正常かどうかを確認します。
冷却水ヒーター
冷却水ヒーターケースの外周や近傍の配管の温度が、その他の部位の温度より高いことを確認します。
また、テスターで冷却水ヒーターの断線の有無等も確認します。
予防的保全において交換すべき部品
予防的保全において、メーカーが交換を推奨している部品は以下の通りです。交換周期はメーカーや製品によって異なることがあります。
- 燃料フィルター
- 潤滑油フィルター
- ファン駆動用Vベルト
- 冷却水用等のゴムホース
- パーツごとに用いられるシール材
- 始動用蓄電池
- 潤滑油
- 冷却水
選択肢3:内部観察と予防的保全を中心とした点検周期
- 点検料金の概要:3つの選択肢でもっとも高い
- 点検に要する期間:発電機容量により2~5日
「1年目に内部観察を行い、その後5年間は毎年予防的保全を講じる」という周期で点検する方法です。
この選択肢の場合、負荷試験を行う必要はありません。
内部観察では、部品を取り外し(分解し)、発電機のエンジン内部にあるコンプレッサやタービン、シリンダなどを目視や内視鏡等で確認します。摩耗や傷が見つかれば、部品交換が必要になることもあります。
また、潤滑油や冷却水については、メーカー指定値の範囲内であるかどうかの分析も必要です。
負荷試験を行わず、代わって内部観察という手法が登場した点は画期的です。非常用発電機の点検業務に対し、一石を投じるきっかけになったことは間違いありません。
ただし現状、3つの選択肢の中では価格がもっとも割高となる点に注意が必要です。
また、点検に要する期間が最長5日と長めになる点も課題と言えます。何より、内部観察は高度な技術を要する点検となるため、施設側は慎重に業者を選定する必要がある点は十分に理解しておきましょう。
内部観察について
平成30年のルール改正において、負荷試験に代わって新たに登場した点検方法が内部観察です。ルール改正における目玉と言って良いかもしれません。
ただし内部観察では、特にシリンダ摺動面を点検する際、高度な知識と技術力が要求されます。実際に内部観察を受ける場合には、十分な実績のある業者を選択する必要があるでしょう。
なお、上でも触れていますが、内部観察における点検項目・点検方法には5項目が定められています。改めて確認しておきましょう。
- 過給器コンプレッサ翼及びタービン翼並びに排気管等の内部観察
- 燃料噴射弁等の動作確認
- シリンダ摺動面の内部観察
- 潤滑油の成分分析
- 冷却水の成分分析