非常用発電機の負荷試験の方法は、大きく分けて「実負荷試験」と「模擬負荷試験」の2種類があります。負荷試験そのものは消防法で義務付けられているものの、実際に受ける試験については、「実負荷試験」と「模擬負荷試験」のどちらを選択しても構いません。
ここでは、「実負荷試験」と「模擬負荷試験」の概要やメリット・デメリットなどを詳しく解説しています。
この記事の目次
実負荷試験のメリット・デメリット
実負荷試験とは、施設内でつながっている各設備を同時に稼働させる形で行う試験を言います。
実負荷試験の主なメリットを1点、主なデメリットを3点ほど確認してみましょう。
メリット
各設備の同時試験を行える
消防用の非常用発電機は、消火栓やスプリンクラー、エレベーターなど、非常事態が発生した際に連動して稼働する設備がつながっています。これらのつながった設備を同時に稼働させながら負荷試験を行えることが、実負荷試験のメリットとなるでしょう。
対する模擬負荷試験は各設備を切り離して行うため、連動する各設備の状況を同時に確認できません。もし各設備の同時試験が必要な場合には、非常用発電機の負荷試験とは別の形で行う必要があります。
デメリット
試験中は施設内の停電・瞬停が発生する
実負荷試験では、試験中に施設内の停電や瞬停(1分未満などの短時間の停電)を避けられません。
生鮮食品を冷蔵・冷凍保管している施設、常時エレベーターの稼働が必要な施設、パソコンのデータ消滅の対策が不十分な施設、介護施設、医療機関、ホテル、その他不特定多数の人が多く出入りする施設など、施設の性質により停電が許されない施設では、実負荷試験を行うに先立ち、用意周到な対策が必要となります。
安定した負荷率を維持できない
消防法では、非常用発電機の負荷試験において「定格回転速度及び定格出力の30%以上の負荷で必要な時間連続運転を行い確認する」と定められています。ここに言う「必要な時間」には具体的な指定がありませんが、一般的には30分程度と考えられています。
しかし、実負荷試験においては、一定の速度で稼働させることが難しいエレベーターやポンプも稼働させながら負荷試験を行います。
そのため、定格出力の30%以上という負荷を長時間キープさせることは困難。消防法が定める安定的な負荷を継続的に維持できません。
試験を行う人員が多く必要となる
実負荷試験を行うためには、稼働させる各設備に対し、同時に専門の人員を配置しなければなりません。そのため試験では、一時的に大人数の人員が必要となります。
人員の人数が多ければ人件費が高くなるため、その分、施設オーナーが支払う試験費用も高くなります。
模擬負荷試験のメリット・デメリット
模擬負荷試験とは、施設内でつながっている各設備を一時的に切り離し、その上で各設備に専用装置を設置して行う試験方法です。
模擬負荷試験の主なメリットを4点、主なデメリットを1点確認してみましょう。
メリット
停電を招かずに負荷試験を実施できる
模擬負荷試験においては、施設の設備に頼らない別系統で試験を行うため、施設内で停電や瞬停が発生することはありません。医療機関や介護施設、大型スーパー、ホテルなどでも、利用者に不安を与えず負荷試験を行うことができます。
スーパーや百貨店などの商業施設においては、営業を一時中断する等の対策も不要になることから、機会損失を招くことともありません。
安定した負荷率を維持できる
実負荷試験とは異なり、模擬負荷試験では、各設備に負荷をかけるための専用試験機を用いて試験を実施します。
専用試験機であればこそ、設備への負荷率も自由にコントロールすることが可能。消防法が定める「定格出力の30%以上」の負荷率についても、問題なく長時間かけ続けることができます。
消防法の指定基準を超える試験が可能になる
消防法の指定では「定格出力の30%以上」を「必要な時間」与え続けることが望ましいとされていますが、それ以上の特別な指定はありません。
模擬負荷試験では、上記の指定に加え、負荷急変試験や負荷追従試験、連続運転(ヒートラン)などの様々な試験も実施可能。
災害時に起こりうると想定される幅広い状況に対し、ピンポイントで的確な負荷試験を行うことができます。
万が一災害が発生した際には、これら各種の試験の有無が、実際の被害状況を大きく左右させるかもしれません。
最低2名で試験を実施できる
実模擬試験では、各設備ごとに専門人員を配置する必要があったため、人件費の増加から試験コストの増大を招きかねない状況です。
一方で模擬負荷試験においては、最低2名の人員で負荷試験を行うことができるため、実模擬試験に比べて人件費が安くなります。その分、施設のオーナーが負担すべき負荷試験費用も安くなることが期待されます。
デメリット
各設備の同時試験ができない
模擬負荷試験は、実負荷試験のデメリットを可能な限り排除する形で実施されている試験です。そのため、現状においてデメリットはほとんど見当たりません。
あえて挙げるならば、実負荷試験とは異なり、各設備の試験を同時に行うことができなくなった点です。同時試験を実施する場合には、非常時用発電機の負荷試験とは別の形で行う必要があります。
非常用発電機の負荷試験には模擬負荷試験がオススメ
非常用発電機の負荷試験の方法として、実負荷試験と模擬負荷試験、それぞれのメリットとデメリットをご紹介しました。
実負荷試験においては、施設の停電を避けられません。
また、負荷の安定を得られにくいことから、カーボンが排出されにくくなるという弱点もあります。
一方で模擬負荷試験においては、施設の停電が発生しません。
試験の負荷も安定しているので、カーボン排出もスムーズです。
以上の理由により、非常用発電機の負荷試験には、実負荷試験よりも模擬負荷試験のほうが適していると考えて良いでしょう。