非常用発電機を72時間は稼働できるようにするべき根拠とは?

非常用発電機

一般的に「非常用発電機は72時間稼働できるようにする」との解釈がありますが、この72時間という時間の根拠はどこにあるのでしょうか?
ここでは、内閣府が公表している業務継続計画(BCP)に関連させながら、「非常用発電機72時間」の根拠について解説します。

「非常用発電機72時間」の根拠

一般的に「非常用発電機は72時間稼働できるものとする」と解釈されています。
この72時間の根拠は、内閣府が公表した「大規模災害時における地方公共団体の業務継続の手引き」にあります。

「大規模災害時における地方公共団体の業務継続の手引き」とは

「大規模災害時における地方公共団体の業務継続の手引き」(※1)とは、より実効性の高い業務継続計画(BCP)の策定を推進する計画のこと。東日本大震災を含めた近年の災害事例を踏まえて作られています。
内閣府防災担当が主導し、地方公共団体に向けて発信している具体的な防災計画の1つです。

この「手引き」を受けて、総務省消防庁は地方公共団体向けに「人命救助の観点から重要な『72時間』は、外部からの供給なしで非常用電源を稼働可能とする措置が望ましい」(※2)と規定。地方公共団体に向けたこの規定は民間にも浸透し、結果、「非常用発電機72時間」という解釈が広く定着しました。

※1:内閣府|大規模災害発生時における地方公共団体の業務継続の手引き

※2:総務省|地方公共団体における業務継続性確保のための非常用電源に関する調査結果

なぜ「72時間」なのか?

一般的に、人間が水を飲まずに生存できる時間は72時間とされています。
例外はありますが、国土交通省近畿地方整備局がまとめた阪神・淡路大震災のデータでは、72時間という時間が人命救助におけるターニングポイントとして示されています。
これらの経験やデータから、災害時における「72時間の壁」という概念が誕生しました。
やがて非常用発電機を含め、災害時におけるあらゆるものに「72時間の壁」の考え方が広がっていきました。

なお、実際の大規模災害時では、停電からの復旧に72時間以上を要することがほとんどです。
多くの場合、電源復旧までに1週間から10日間ほどの期間を要しているのが実情です。

ガスタービン式の非常用発電機に関する注意点

非常用発電機のエンジンシステムには、ディーゼル式とガスタービン式の2種類があります。

ガスタービン式には電力の品質や負荷追従性などにおいて、ディーゼル式に勝るメリットがあります。しかし燃料消費量が大きく大型の燃料タンクが必要になることから、導入に際しては慎重に検討することが望まれます。

ガスタービン式発電機を長時間にわたって運転させる場合には、大容量の燃料タンクを別置きする計画が必要です。
大容量の燃料タンクを設置する場合には、危険物取扱所としての規制、そして建築物の構造や消防設備などに制約が入ります。
事後的に大容量燃料タンクの設置を検討しても、申請が通りにくいこともあるため要注意です。

業務継続計画(BCP)の概要と非常用発電機の重要性

緊急時の備えとして重視されている「業務継続計画(BCP)」の概要、およびBCPの一環として重視されている非常用発電機の重要性について解説します。

業務継続計画(BCP)とは

業務継続計画(BCP)とは、緊急事態に対する企業の備えを具体的にまとめた計画のことです。
こちらは、自然災害やテロ攻撃などの緊急事態が発生したことを想定しています。
企業の損害を最小限に抑えることと中核事業の継続・早期復旧を目的に、各企業が用意すべき具体的な手段・方法をまとめたものが業務継続計画(BCP)です。

業務継続計画(BCP)における非常用発電機の重要性

非常事態により長時間にわたる停電が発生した場合、消防設備不稼働により火災延焼の恐れがあります。
また、復旧作業が遅れたり、事業継続が困難になったりすることも想定されます。
長時間停電によるこれらの被害を少しでも抑えるためには、非常用発電機の導入が非常に有効となります。

官庁施設における業務継続計画(BCP)

国土交通省では、災害発生時における民間企業への対策推奨に加え、各官庁施設における業務継続計画(BCP)も具体的に策定しています。
特に重要な内容の一例として、「基幹設備機能」の維持が挙げられます。

基幹設備機能とは、活動支援空間および執務空間を正常に維持するための各種機能のことです。
具体的には、電力、通信・情報、給水、排水、空調、監視制御、エレベーターなど、官庁設備の主要部分をなす設備機能を言います。
非常用発電機も、この基幹設備機能の一部として含まれます。

なお、非常用発電機には、法令で定められた「防災用」と自主的に設置する「保安用」の2種類があります。
どちらのタイプでも定期的に負荷試験を行う必要があります(防災負荷または保安負荷)。

業務継続計画(BCP)における非常用発電機以外の例

企業が自社の業務継続計画(BCP)を具体的に策定する際には、非常用発電機の他にも、企業や業界の実態に応じた様々な計画を検討する必要があります。
以下、非常用発電機以外で検討すべき業務継続計画(BCP)の具体例について、業界別に見てみましょう。

製造業

  • 危険箇所の把握
  • 機器や商品の落下・転倒防止(機器の固定)
  • 被災時における緊急製造場所との提携構築
  • 太陽光発電設備の設置
  • 非常時に利用可能な井戸の設置
  • 従業員に対するBCPマニュアルの配布
  • クラウド型安否システムの導入

建設業

  • 災害時の行動マニュアル作成と従業員への配布
  • 被災時の資材ルートの確保
  • 他の地域にある工務店との連携構築
  • 被災時の電話対応マニュアルの作成

販売業

  • 被災時に守るべき商品の優先順位決定
  • 販売用としての生活必需品の備蓄
  • 従業員に対する災害必需品の常備指示(社員ロッカーなどへ)
  • 帰宅困難な従業員を想定した食糧・寝具の確保
  • 早期完全復旧を目指した建設業者との連携構築

卸売業

  • 仕入先との支援協力関係の構築
  • 代替品での対応マニュアルの策定
  • 運搬用トラックのガソリン満タン補充(半分に減ったら満タンなど)
  • 従業員との連絡手段確保(SNSなど)

食品運輸業

  • 非常用発電機による冷蔵・冷凍設備の稼働準備
  • 冷蔵庫内・冷凍庫内への無線機設置
  • 食品庫の取り扱いマニュアルの策定
  • 従業員との連絡手段確保(SNSなど)

非常用発電機に関する基本的な知識

非常用発電機に関して押さえておきたい基礎知識を3点ほどご紹介します。

非常用発電機が必要な理由

非常時以外において、日本国内の電力事情は非常に良好です。
まれに落雷や地震などの影響で停電が発生することもありますが、多くの場合、停電は短時間で解消します。

逆に言えば、日本人の多くは普段の良好な電力事情に慣れているからこそ、長時間の停電に対する備えが十分とは言えません。
仮に、自然災害などで工場施設が停電となって火災が発生した場合、各種消防設備を始動させることができず、被害が拡大してしまう恐れもあるでしょう。
火災などによる被害を抑えることに加え、主要業務の継続・早期復旧のためにも、非常用発電機は非常に重要な役割を果たします。

防災設備以外の用途には使えない非常用発電機もある

「わが社には非常用発電機があるので、停電が発生しても業務が止まることはない」と考えている方がいるかもしれません。
しかし、必ずしもすべての非常用発電機があらゆる設備の電源となるわけではない点に注意が必要です。

例えば防災専用の非常用発電機は、消防設備などにしか電源供給ができません。
また、防災用・保安用の共用発電機においても、防災電源としての燃料保有が優先されるため、一般業務で使える電源は制限されます。
防災・消防設備などに関係なく一般業務などで自由に使える非常用発電機は、基本的に保安用のみ。
保安用の非常用発電機は、法令ではなく設置者の任意で導入する設備になります。

非常用発電機にはディーゼル式発電機やLPガス発電機がある

非常用発電機には、主にディーゼル式発電機とLPガス発電機があります。
それぞれの概要やメリット・デメリットを確認しておきましょう。

ディーゼル式発電機

軽油を燃料として稼働させる発電機です。
LPガス発電機に比べ、燃料単価が安いうえに発電効率が良いこと、省スペースで設置できることなどがメリット。
一方、騒音や振動、排気ガス、燃料劣化などがデメリットとして挙げられます。

LPガス発電機

液化石油ガスを燃料として稼働させる発電機です。
燃料の劣化が少ないことや連続運転時間が長いこと、環境にやさしいことなどがメリット。
一方、ディーゼル式に比べて燃料単価が高いこと、製品の種類が少ないことなどがデメリットとして挙げられます。

著者
備瀬元博

日本負荷試験テクノ株式会社

営業部 次長

備瀬元博

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